◆ PAGE.1

◆ PAGE.2

◆ PAGE.3

エルフの隠れ家  −Elf Of Retreat−
◆EPISODE.7 クロフォードの血(PAGE.1)
地風伝説PAGE.1PAGE.2PAGE.3

 ロンティアは走った。クリスが指示する方向に……
 風の声が聞けるというクリスの言葉はにわかには信じがたいが、ロンティアは疑わずに走った。
「どこだろ?…見えない…」
「ところでクリス…一体どんな夢を見たんだ?」
クリスは、どう説明したらいいかわからないと言った様子でしばらく考え込んでいたが、なれない口調で話し始めた。
「よくわからないけど…お兄ちゃんが、軍の人に襲われて…すごくひどい怪我してて…それで、なんかお兄ちゃん、動物みたいになって…人をひっかいたり噛んだりして殺すの。ボク…お兄ちゃんに襲われたところで目が覚めたんだ。」
ロンティアの上でぶるぶる震えるクリスに、ロンティアは只ならぬ戦慄に犯された。昔の…あの時のアレンが、また現れる…そして、クリスが見た夢のような悲劇がおきる。そんな構図が、ロンティアの頭の中で、わずかな時間で繰り広げられた。
「それは…夢だけじゃすまされないかもしれないな。」
そうつぶやきながら、ロンティアは足を止めた。
「クリス…次はどっちだ?」
「うぅん……」
そよ風がふいた。アレンの居場所を、風に聞いているのだろう。
「近いよ。お墓のそばだって言ってる……」
「ここからだと、墓地の方か…」
雨で濡れた眼鏡のレンズを拭き、ロンティアは再び走り始めた。

 彼らの剣は重なり合い、雨にも関わらず火花を散らした。二人の目は美しい程に憎しみに光っていた。
「どうした?力が入ってないぜ!!」
 ギリリリ…
 圧倒的な力に押され、アレンの持つ剣が不快な音をたてた。踏みとどまろうとする、負傷を負った足に痛みが走る。アレン以上に人間離れしたグレンの戦闘力に、久しく恐怖や不安を覚えた。
「こんな戦い方で、よくフェアプレイなんて言えるな…ッ」
「まだ減らず口がたたけるようだな…アレン。」
「くっ…」
更に力を増すグレンの攻撃に、アレンは自分の耐え切れる腕力に確かな限界を感じた。未だ余裕のグレンの表情からも、プレッシャーを感じざるをえない。
「っは!!」
「んな!?」
アレンは起用に体をひねり、回転させ、グレンの斬撃を受け流し、背後にまわりこんだ。
「もらったァ!!」
アレンの振り上げた剣には、確かな殺意が籠もっていた。しかし、決まったと確信して振り下ろした剣は音を立てて空を斬り、地面にぶちあたった。
「なっ……」
姿や気配を消したグレン。アレンは言い知れぬ恐怖に支配される……いつ、どこから攻撃が来る?恐怖を抱きながらも、冷静に、目を閉じ気を殺し辺りの気配に意識を集中させる。
 ビュッ!
 太刀風…。アレンは後ろから迫る太刀音に気づくことが出来た。
 ガキィィ…
 剣と剣とがぶつかり合う金属音…その音は雨音よりも大きく、なにより緊張感があった。
「あの頃よりは…強くなったようだな。」
まるで強い者との殺し合いを楽しむかのように、グレンは笑った。
「グレン…なんでアンタは、父さんの志を継がなかった?なんで…なんで国に手を貸してんだ!?そんなに、父さんが愛したエルフが憎いか!?」
「あぁ憎いさ。親父にお袋を裏切らせて、お前を産んだお前の母親と、お前が憎い!」
 ギリギリギリ……
憎しみを煽れば煽るほど、グレンの強さは増す。憎しみだけで、ここまでの強さを積み上げてきたのだから。
「くぅあッ……」
熱をもつ足の傷に顔を歪めるアレンに、グレンはさらに負荷をかける。
「…だがな…憎いだけなら…さっさと殺せばいいんだ、お前みたいなガキ。」
「っち……」
屈辱を与えられ、アレンの表情はさらに痛みと怒りの色を増す。
「オレは……」
グレンは、片手でアレンの顔を無理やり自分の方へ寄せ…
「お前の力が……」
アレンの前髪で隠れた左目に息を吹きかける。
「欲しい……」
右手をアレンの左目に伸ばした。前髪の隙間から指を入れ、親指の先が目頭に立つ。
 アレンは抵抗できなかった。両手の力を抜けば、忽ちグレンの短剣の餌食になる。それに…今動こうとすれば、自分は自分の中の、何かに取り込まれてしまう。今、グレンが取り出そうとしている何か…だが、その何かがグレンの手に渡ってしまえば、永遠に人間とエルフは共存できなくなる。
「や…めろ……ッ!」
声は出た。だが、やめろと言っていうことを聞く男だとは、到底思えない。
 その一瞬は、まるでスローモーションとも思えるほど長かった。グレンの親指の、冷たく長い爪の感触だけが、ずんっと心にのしかかって来るかのようだった。
「お兄ちゃん!!」
「アレン!」
ロンティアとクリスが到着した時には…すでにアレンは、自らの脅威を解放した後だった。

 だ… ダメ…だ……… セイギョ…デキナイ!!

 アレンは…自分の中に眠るとんでもない力が、グレンの手に渡るのだけは防ぎたかった。それがたとえ……自分を捨てる行為だとしても。
「アレン、お前もう…覚醒しやがるのか!?」
アレンの体から吹き上がる気に弾かれ、立ち尽くすグレン。アレンは自分の胸を押さえ、呻き、その声は次第に人ならぬ声になってきていた。アレンに漂う真っ赤なオーラは、まるで燃え盛る炎や、獣の尾のように宙をゆらめいた。
「う…ぐぅあああっ!!!!」
「アレン…お前には獣化はまだ早い!!」
「正気に戻れ!アレン!!」
「ダメだよッ…お兄ちゃん!!」
三人の声も、もはや獣心に心を奪われたアレンには届いていない。



Base template by WEB MAGIC.  Copyright(c)2008 エルフの隠れ家  −Elf Of Retreat− All rights reserved.