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エルフの隠れ家  −Elf Of Retreat−
◆EPISODE.1 大地と風(PAGE.1)
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 とある病院。そこには、今にも消えそうな命を助けようとする若い名医がいた。最近は急患が運ばれてくることが少なくなったが、それでもその青年は、慎重に、冷静に、診察に来た患者達を、手を抜くことなく診て、病気や怪我を治す心優しい医師だ。
 今はそれが当たり前だと人は言う。しかし、それを本当に当たり前のようにこなせる、何かしらの強い信念を持っている医師はそういない。
 彼はかつて、剣を振るい、大切な者を守る為に戦っていた守護者(ガーディアン)だった。彼には、国を敵にまわしてでも、守ろうとする一つの小さな命があった。
 小さくも大きい…か弱くも強き意志をもつ、暗闇の中に、全ての者だちに捨てられていた一人のエルフの少年だ。
「アレン先生!」
「やぁ、元気そうだね。シェリア。調子はどう?」
「もう息苦しくなくなったよ。アレン先生のおかげだよ、ありがとう!」
 アレン…それが彼の名だ。肩につくぐらいの赤い長髪に、その赤よりもさらに深い赤色の瞳。長身にスタイルのいい体つきに整った優しい顔立ちと、文句なしの外見だ。
 シェリアと呼ばれた少年は、だいぶ前にこの病院で気管支炎で入院していた、アレンが医者になって二度目に担当していた小児科の患者だ。その無邪気なシェリアの姿は、アレンの記憶の中の、あの少年の面影をよみがえらせた。
「どういたしまして。さぁシェリア、もう暗くなってきた。早く帰らないと、またお母さんに怒られるぞ。」
そう言うと、アレンは優しく微笑んだ。
「うん、わかった。また来るね!」
 去っていくシェリアを見るアレンの瞳からは、夕暮れの、赤き光をおびたその笑顔ですら隠しきれない感情が、滲み出ていた。幸せそうに帰っていくシェリアを眺めながら、アレンはしばし沈黙した。
 それから、ほんの少したってからだ。アレンは、その病院で共に働く女医、アルナに総合診断結果を報告しに行った。
「今日も大きな病気は見付からなかったのね…安心だわ。」
アルナ…茶色いウェーブのかかった髪形に、鮮やかな空色の瞳。アレンと同じように、白衣の下の体はとてもスタイルがいい。一見そう年齢を重ねていそうにないが、しゃべり方や行動の物々しさからは。アレンよりも遥かに歳上だと言うのが伺える。
「でも自分の腕に自信がないから、特に変わったことがない方が、ちょっと心配だったりするんだよ。」
彼は謙虚だ。如何なる時も油断しないその心構えは、どんな些細なミスさえ許さない。
「アナタなら大丈夫よ。私が認めた医者だもの。」
「ありがとう。アンタがいなかったら、オレは医者にはなれなかったでしょうね。」
「フフ…そうでしょうね。さ、もう家に帰ってゆっくり休みなさい。医者が不健康しちゃダメなのよ。」
「わかってます。じゃあ、後よろしくお願いします。」
軽い口調で挨拶をすると、アレンは自宅へ帰る準備をした。
 しばらくして、更衣室から出てきたアレンは、白衣から、Tシャツにジーパンと、やけにシンプルな服装になっていた。昼間の雰囲気とは想像もつかないぐらいラフな格好と、その服から浮き上がるスラリとした体つきからすると、やはり名医と呼ばれるには若すぎる歳のようだ。
「じゃあ、明日もお願いね。…アナタに期待してるわよ。」
「あんまりプレッシャーをかけないでくれよ…」
そんなアレンの言葉を聞くと、アルナはクスりと笑った。
「プレッシャーなんて、アナタには似合わない言葉ね…」
「相変わらず失礼な人だなぁ…」
そんなアルナに、アレンは苦笑いを見せると、窓から覗かせる闇の中から吹く風と共に、その場をあとにした。

 アレンの自宅は、シンプルで高層、誰が見ても綺麗と思えるマンションだ。
 そのマンション独特の重たいドアを開けると、男性だけで住んでいる部屋のわりには、綺麗に使われているキッチンと、シックな色をベースにした家具が置かれた寝室があった。
「おぉ、遅かったなァ。」
 なんの不自然さもなくアレンを迎えたのは、アレンのペット、フルーだった。
 小型犬サイズで円らな瞳、羽のような大きな耳を持った、銀の毛色の可愛らしい謎の生き物。人の言葉を理解し、愛くるしい声で話すというますますミステリアスな生き物だ。
「お前なぁ…堂々とオレのデスクに座るんじゃねぇよ。パソコン勝手につけてないだろうな?」
 珍しく、アレンは苛立ったような声をあげた。まぁ、本気で迷惑がっているわけではなく、フルーに対するちょっとしたコミュニケーションなのだ。アレンにはむしろ、いつもツンツンした性格の方が称に合ってるだろう。
「いいじゃねぇか、オメェが家にいない時ぐらい。この家にはゲーム機ねぇんだから…パソコンでマインスイーパーとかやりてぇよ。」
「しゃあねぇな。今度お前のユーザーつくってやるよ…」
この二人…イヤ、この一人と一匹は、いつもこんな感じの会話を交わして暮らしている。正直な気持ちで話を交わせるのは、仲のいい証拠である。
「長い付き合いだなぁ…兄弟みたいな仲だよな?オレ達……」
フルーの一言は、アレンの心の傷を、激しく疼かせる結果となった。
「オレの兄弟は…一人しかいない。」
思いの他冷静な声色だった。…が、隠し切れない思いが、アレンの声を微かに震わせた。
「ご、ごめん……お前の前で、兄弟の話を軽くするもんじゃなかったな。」
いつも笑顔をたやさずに過ごしているアレンが、珍しく無を帯びた顔をした。真っ直ぐにフルーを見つめる紅蓮の瞳が微かに揺れる。
「そんな顔するなよ…らしくないぜ?」
 …らしくない…
 そういえば、アルナもそんなことを言っていた気がする…と、アレンはしばらく考えた。そしてまた、冷静さを取り戻して、口を開いた。
「…それも、そうだな。ごめん…お前とは長い仲なのに、突き放したような言い方したな…オレ。」
「オレのことは気にスンナよ。…そんなことより、オレにはお前の笑顔を守らなきゃいけない理由がある。またお前の笑顔を消し去るような障害を、オレは排除していかなきゃならないんだから。」
 フルーには、アレンに対する恩と…ある心に決めた硬い約束を守り続けている。
 アレンもまた…約束と、強い覚悟と、守るべき大切な人の"意志"がある。



…それは…


本当の兄弟のように生きた


人間とエルフの


…命の物語…



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